中国専利実務における先使用権の考え方

2026/05/12
2026/05/13

先使用権は、中国の専利制度における例外条項の一つです。専利出願の出願日前に既に同一製品を製造し、同一の工程を実施していた、またはそのために必要な準備を完了していた第三者は、専利が付与された後も、当初の規模の範囲内で当該技術の使用を継続することが認められます。

法的根拠

中国専利法第75条第2項には、以下のように規定されています。

次に掲げるいずれの事由も、専利権侵害とはみなされない。

…(2)専利出願の出願日前に、既に当該専利出願と同一の製品を製造し、または同一の方法を使用し、若しくはその製造または使用に必要な準備を完了しており、その後も当初の規模の範囲内でのみ当該製造または使用を行う場合。

司法解釈

最高人民法院による「専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」では、先使用の抗弁を主張するための条件がさらに明確化されています。

第15条
被告が違法に取得した技術または設計に基づいて先使用権を主張する場合、人民法院は当該抗弁を支持しない。

また、次に掲げるいずれかの状況に該当する場合、専利法第75条第2項に規定する「製造または使用のために必要な準備を完了している」とみなされます。

  1. 発明創造の実施に不可欠な主要な技術図面または工程文書が既に完成している場合。
  2. 発明創造の実施に不可欠な主要な設備または原材料が既に製造または購入されている場合

「当初の規模」とは、専利出願の出願日前に実際に存在していた生産規模、及び既存の生産設備を利用して、又はすでに行われていた準備に基づいて、達成可能である生産規模を指します。

また、出願日後に、先使用者が既に実施に必要な準備を完了していた、または既に実施していた技術や設計を譲渡もしくは許諾した場合、当該技術や設計が当初の事業とともに譲渡または承継されない限り、その後の実施は「当初の規模」の範囲内とはみなされません。

先使用の抗弁が成立するための要件

先使用権を行使するためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。

1.技術の合法的取得
技術は、独自の研究開発または正当な購入により取得されたものでなければなりません。剽窃、窃取、その他不正な手段で違法に取得された技術は、明確に排除されます。

2.実施に必要な準備に関する証拠の存在
被疑侵害者(先使用権を主張する者)は、出願日前に相当の人的・物的投資が行われたことを裏付ける具体的な証拠を提出する必要があります。証拠としては、技術図面、設計図、実施計画、工場敷地、専用設備、主要原材料、金型などが含まれます。

3.当初の規模の範囲内での実施
現在の生産量は、出願日前に実際に存在していた、または出願日前に完了した設備・準備によって達成可能である生産能力の範囲内でなければなりません。出願日後における当該規模を超える拡張、譲渡又は許諾は、企業の譲渡又は合併に伴う場合を除き、認められません。

北京市高級人民法院は、先使用権は専利法に規定される専利製品の製造および専利方法の使用行為に限られず、当該方法によって製造された製品や、直接得られた製品の使用、販売、または販売の申出にも及ぶと判示しています。

重要な点として、製造、使用、または実施に必要な準備は中国国内で行われなければならず、中国国外で製造し、その後中国に輸入する場合は、先使用に該当する実施行為とは見なされません。また、ここでいう「設備または金型」とは、当該技術の実施に不可欠な専用設備や金型を指し、通常の生産で使用される汎用設備は含まれません。

先使用の抗弁を主張するには、被疑侵害者は専利出願日前に実施されていた具体的な技術案を立証する必要があります。この技術案は、被疑侵害製品及び専利発明の両方と、同一または同等でなければなりません。なお、専利出願日以降に技術的改良が行われた場合であっても、出願日前の技術案が請求の範囲において専利発明と同一または同等であることが立証できれば、当該抗弁は有効であると認められます。

先使用の抗弁と従来技術の抗弁の関係

先使用の抗弁と従来技術の抗弁は、いずれも専利侵害の主張に対する一般的な抗弁ですが、以下の点で重要な違いがあります。

  1. 専利権への影響
    先使用の抗弁は、あくまで侵害の例外であり、専利自体の有効性には影響しません。一方、従来技術の抗弁が認められると、専利の有効性自体に疑義が生じる可能性があります。
  2. 要件
    先使用権を主張するために、被疑侵害者は専利出願日前に、当初の規模でかつ合法的に取得した技術で、既に製品を製造していた、または当該方法を実施していた、あるいはそのために必要な準備を完了していたことを証明する必要があります。
    一方、従来技術の抗弁では、被疑侵害技術が公知の先行技術の一部を構成していることを立証する必要があります。
  3. 対比の方法
    先使用の抗弁の場合、まず侵害が成立していることが前提となります。すなわち、被疑侵害製品と対象専利の請求項を比較し、それらが同一または均等であることを確認した上で、当該技術と先使用技術との対比を行います。これに対し、従来技術の抗弁では、侵害の成立を前提とはせず、被疑侵害製品または方法を従来技術と直接対比することが認められています。
  4. 法的効果
    先使用の抗弁が認められた場合、当該技術の実施は、当初の規模の範囲内に限り継続が許され、それを超える拡張は侵害となる可能性があります。これに対し、技術が従来技術であると証明されれば、その実施に制限はありません。


出所:https://www.boip.com.cn/en/news/603.html

    

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