ビジネスをグローバルに展開する際には、最も重要な資産である「ブランド」を保護することが不可欠です。これは、商標権者にとっては、商標を使用するすべての国・地域で権利を確保することを意味し、主に2つのルートがあります。一つは「マドプロ国際出願」で、もう一つは「直接出願」です。どちらの方法にもそれぞれのメリットとデメリットがあり、最適な選択は企業の戦略、予算、そして対象とする地域によって異なります。
マドプロ出願:一元化されたアプローチ
世界知的所有権機関(WIPO)が管理するマドプロ制度は、商標保護を求めるための一元的な仕組みを提供しています。出願人は、一つの国際出願(英語、フランス語、またはスペイン語)を提出し、複数の加盟国(現在110カ国以上)を指定することができます。重要な点として、マドプロ制度は一つの統一した「世界商標」を創出するものではなく、一連の国家権利を生成するものです。つまり、各指定官庁によって審査、登録または拒絶されますが、手続きはWIPOを通じて管理されます。
マドプロ出願のメリット
1.幅広い国でのコスト効率
複数の国で保護を求める場合、マドプロ出願を利用する方が一般的には経済的です。出願人はWIPOに対して一括の基本手数料と国別の指定手数料(多くの場合、直接出願の手数料よりも安い)を支払うだけで済み、出願時から各国に重複して出願することを回避できます。
2.手続き面での効率性
氏名・住所の変更、更新、譲渡といった書誌事項の変更手続きは、すべてWIPOを通じて一元的に行うことができます。これにより、純粋に事務的業務のために各国で代理人を選任する必要性が軽減されます。
3.追加指定に対する柔軟性
事後指定により、商標権者は最初の出願後に新しい加盟国を追加することができ、出願手続き全体を繰り返す必要がありません。
マドプロ出願のデメリット
1.「セントラルアタック」リスク
国際登録は、最初の5年間は基礎となる(自国での)出願または登録の有効性に依存します。この期間中に基礎商標が取消され、制限され、または異議申立てが成功した場合、国際登録も同様の影響を受けます。直接出願に切り替えることは可能ですが、高額な費用がかかります。
2.間接的なやりとり
オフィスアクションや拒絶理由通知は各指定国の商標局から発行されますが、WIPOを経由して伝達されます。この間接的なプロセスにより遅延が生じる可能性があり、実質的な拒絶理由通知に対応するためには、結局現地代理人の関与が必要となる場合もあります。
3.不備の一律影響
国際出願における不備(商品/役務のリストや出願人情報の不備など)は、すべての指定国に波及します。その結果、パッケージ全体の有効性が損なわれる可能性があります。
4.地理的な制約
マドプロ制度でカバーされるのは加盟国に限られます。南米の多くの国やアフリカの一部の地域などの非加盟国については、依然として個別に直接出願を行う必要があります。
直接出願:独立したアプローチ
この方法は、対象とする各国の商標局に対して、通常現地代理人を通じて個別に独立した商標出願を行うものです。
直接出願のメリット
1.完全な独立性
各国の登録はそれぞれ独立しています。ある国での不利な結果(取消や異議申立)は、他の国での登録には影響しません。
2.現地の専門知識を直接活用
現地の代理人と連携することで、その国の法律、実務、言語に関する深い知識を得ることができます。これは、拒絶理由通知への対応、異議申立、権利行使を円滑に進めるために不可欠です。
3.各国に合わせた保護
出願は、各国の要件(区分の取り扱い、指定商品の記載方法など)に合わせて調整できるため、適合性を確保でき、拒絶リスクを最小限に抑えることができます。
4.マドプロ制度対象外地域をカバー
マドリッド協定議定書に加盟していない法域では、直接出願が保護を受けることのできる唯一の手段です。
直接出願のデメリット
1.複数国出願をする場合のコスト高
各国での出願には現地代理人の費用と官庁費用が必要であり、多数の国で権利を求める場合、その費用は大幅に増加します。
2.事務手続きの負担
所有権や住所の変更、更新手続きは各国で個別に申請する必要があり、その度に代理人費用と官庁費用が発生します。
3.ポートフォリオ管理の複雑さ
更新期間の違い、各国の実務慣行、代理人との関係などを個別に把握・管理しなければならず、しっかりとした管理システムが求められます。
結論:自社にとって最適な戦略とは?
マドプロ出願か直接出願かの選択は、戦略的判断に基づくべきです。
- マドプロ制度:中小企業や、近い将来に5ヶ国以上の加盟国で保護を求める企業に適しています。特に、コスト管理や手続きの簡素化を重視し、自国での商標が安定している場合に有効です。
- 直接出願:1、2ヶ国程度の限られた市場や、マドプロ非加盟国での保護を重視する企業、またはコストよりも独立性や現地専門知識を優先する企業に推奨されます。
- ハイブリッド・アプローチ:多くの場合、両者を組み合わせるのが最適です。多数の加盟国についてはマドプロ制度を利用しつつ、戦略的に重要な非加盟国やリスクの高い国については直接出願を並行して行う方法です。
企業の事業目標、リスク許容度、予算に応じて最適な組み合わせを見極めるためには、経験豊富な商標専門家にアドバイスを求めることが不可欠です。