はじめに
2022年、中国国家知識産権局は「新・商標審査審理指南(以下、「新指南」という)」を発表し、商標審査および審理の基準を多方面にわたって更新しました。その中でも、商標事件における「域外証拠」の認定に関する変更は特に注目すべきものであり、以下詳細な分析をさせていただきます。
I.商標事件における域外証拠
域外証拠とは、商標の使用や事件の事実に密接に関連する中国国外で形成された、証拠を指します。これには、当事者が直接提供した証拠や、合法的なルートを通じて国外で収集された証拠の両方が含まれます。具体的には、外国企業が自国で取得した商標登録証、商業契約書、広告資料などが該当し、これらはいずれも商標事件における域外証拠の範囲に含まれます。
II. 2022年以降の域外証拠認定における変化
1.認証手続の簡素化
中国が「ハーグ条約(アポスティーユ条約)」に加盟したことにより、域外証拠の認証手続が大幅に簡素化されました。その結果、商標使用証拠の提出要件が緩和されました。例えば、条約締約国の公開データベースから取得した公式照会結果を印刷したものが、有効な証拠として提出可能となりました。この変化により、域外証拠の取得・提出の負担が大幅に軽減され、証拠収集の効率が向上し、商標審査手続もより簡便になりました。
審査の焦点の転換
新指南では、証拠の形式や地理的出所よりも、証拠の実質的な関連性と証明力に重きが置かれるようになりました。
例えば、外国企業が提出した広告・販促資料について、審査官はその広告の範囲、対象となる消費者、および中国市場や消費者との関連性を分析するようになりました。このようなより科学的かつ合理的な審査方法により、事実に対するより正確な認定が可能になました。これにより、域外証拠の承認が進むとともに、異議申立や無効審判の成功率も上昇しています。
先使用証拠要件の最適化
従来、商標事件においては、中国国内で生成された証拠や、外国での使用が中国人消費者に対して実質的な影響を与えたことの証明が重視されていました。しかし、知的財産における国際交流の拡大により、審査官は域外証拠に対してより客観的で権利保護重視の姿勢をとるようになっています。
Twitter、Facebook、InstagramといったSNSや、国外展示会における販促資料は、現在異議申立や無効審判において徐々に受け入れられるようになっています。
例えば、「Mizyake図形結合商標異議申立事件」では、審査官はカナダにおける広告・展示活動、TwitterやFacebookの販促証拠、さらに申立人の関連する先行権利(例:著作権)を考慮し、証拠が中国で発生していることや中国消費者に広く認知されていることを厳格に求めることはありませんでした。
また、権利者自身の使用や販促だけではなく、現在は、消費者や第三者による使用や普及により注目するようになっています。
III. 対応策および提言
域外証拠の認定基準が変化していることを踏まえ、商標権者や先使用者は、それに応じて戦略を見直す必要があります。
商標権者は、強力で包括的な証拠、特に域外証拠や著作権関連資料も収集し、新指南を積極的に活用して、権利主張の成功可能性を高めるべきです。
先使用者は、使用期間、地理的範囲、販促活動記録などの商標使用に関する関連証拠を慎重に保管し、先使用権の主張を効果的にサポートできるようにする必要があります。
著者:品源商標代理人 段媛花