日系企業への「独占禁止法」違反での罰金

2014/08/30
2022/04/14

中国は日系企業に「独占禁止法」が施行されて以来最高の罰金を科した

最近、中国国家発展改革委員会(以下「発改委」という)は日本の自動車部品企業  8 社及びベアリング企業 4 社に計 12 億 3500 万元(約 206 億円)の罰金を科しました。これは、「独占禁止法」が 2008 年 8 月 1 日に施行されて以来、中国が外国企業の価格カルテルに対して科した最大の罰金金額となります。最近激しくなった中国の独占禁止調査に対し、筆者は「独占禁止法」の関連規定、ケースなどをめぐって、外資系企業が中国での経営リスクを減らすために如何に対応すべきであるかを分析します。

 

1.事件の概要

2014 年 3 月、発改委の独占禁止調査員は日本の自動車部品企業に対し調査を始めました。
調査によると、2000 年 1 月から 2 月までの間に、日立、デンソー、愛三、三菱電機、ミツバ、矢崎、古河、住友などの日本自動車部品生産企業 8 社は、競争を減らし最も有利な価格で注文を受けるため、日本でたびたび談合を行い、価格カルテルを結んだことが判明されました。

一方、不二越、精工、ジェイテクト、NTNなどの日本ベアリング生産企業 4 社については、2000 年から 2011 年 6 月までの間、日本や上海で企画した研究会や市場会議で、アジアや中国市場でのベアリングの値上げ時期や値上げ幅に関する情報交換を行い、その情報を基に各社が値上げを実施していたと認定されました。

2014 年 8 月 20 日、発改委は、上記企業の行為は市場競争を排除、制限し、中国での自動車部品や全車、ベアリングの価格に不正な影響を与え、下請け会社の合法的権益と中国消費者の利益を損ない、中国の独占禁止法の規定に違反したとして、部品企業 8 社に 8 億 3200 万元(約 137 億円)の罰金、ベアリング企業 4 社に約 4 億元(約 66 億円) の罰金、計12 億 3500 万元(約 206 億円)の罰金を科したと発表しました。

 

2.事件の分析

1)独占禁止措置

上述した最高の罰金額から分かるように、中国政府及び関連部門は中国独占禁止法の執行力及び執行規模を広げております。2013 年から始まった大規模な独占禁止調査は、上記自動車部品企業以外に、自動車、メガネ、液晶パネル、乳製品、白酒などの業界にも関わられ、ますます増える傾向にあります。

「独占禁止法」が施行されて以来の 6 年、中国政府による外資系企業に対する独占禁止措置には、「最高の罰金」以外に、以下の措置が含まれております。

(1)液晶パネル企業に対する制裁

2013 年 1 月、発改委は独占禁止法に基づいて韓国のサムスン、LG、中国台湾の奇美、友達などの液晶パネル企業を摘発しました。理由は、当該事件と関連する液晶パネル企業6 社が、液晶パネル価格を共謀して操作し、中国大陆で価格独占行為を実施したとのことです。要求に応じて、当該企業 6 社は中国国内のカラーテレビ企業による過払い金 1.72 億元を全額払い戻すとともに、改善策をも提出しました。

(2)アメリカクアルコム社に対する独占禁止調査

2013 年 11 月より、発改委はアメリカクアルコム社による特許不正使用及びチップ価格について調査を始めました。現在に至る半年ほどの調査において、クアルコム社の社長はチームを率い、発改委を 3 回訪れて、質疑応答や意見交換を行いました。発改委によるクアルコム社に対する独占禁止調査は終わりに近く、近い内にその市場支配的地位の濫用行為に関する決定が下されるそうです。注目すべきことは、2009 年、韓国の公正取引委員会は、韓国市場での市場支配的地位の濫用を罰するために、クアルコム社に対し 2 億ドルの罰金を科しました。

(3)自動車企業に対する独占禁止調査

7 月から今までの間に、BMW、アウディ、ベンツ、ジャガー、ランドローバー、クライスラーなどの自動車生産企業は相次いで発改委により独占行為が認定され、その中の多くの企業が全車価格や部品価格の引き下げを発表しました。

独占禁止調査の圧力に対処するため、最近、自動車全車や自動車部品や粉ミルクなどの企業は続々と製品の販売価格を引き下げました。自ら独占禁止調査に対処して値下げをする行為は消費者に大きな利益を与えることができますが、事業者の立場からすると、最近の独占禁止調査は外資系企業の中国での経営戦略、価格設定方針などに対し少なからず衝撃を与えると考えられます。

2)法的規定

2008 年 8 月 1 日から施行された中国「独占禁止法」においては、以下の行為が「独占行為」の対象となっております。

  1. a. 事業者が独占協定を取り決めること、事業者が市場の支配的地位を濫用すること、及び、c.事業者が集中することです。

具体的には、事業者が経営過程において下記(1)~(4)の独占行為を実施してはなりません。

(1) 競争関係にある事業者間で、商品価格を固定するか若しくは変更し、商品の生産量若しくは販売量を制限し、販売市場若しくは原材料の仕入れ市場を分割し、新技術や新設備の購入を制限するか若しくは新技術や新製品の開発を制限し、共同して取引を拒絶する行為。

(2) 取引相手と、第三者に転売する商品の価格を固定する独占協定、第三者に転売する商品の最低価格を制限する独占協定、又は国務院独占禁止法執行機関により認定された他の独占協定を取り決める行為。

(3) 市場の支配的地位を有する事業者が、以下の市場の支配的地位を濫用する行為に従事すること。
(ア)不公平な高価格で商品を販売するか、又は不公平な低価格で商品を購入する行為、(イ)正当な理由なしに、コストを下回る価格で商品を販売する行為、(ウ)正当な理由なしに、取引相手との取引を拒絶する行為、(エ)正当な理由なしに、取引相手がそれとのみ取引を行なうように制限するか、又はそれが指定した事業者とのみ取引を行なうように制限する行為、(オ)正当な理由なしに、抱き合わせ販売をするか、又はその他の不合理な取引条件を付ける行為、(カ)正当な理由なしに、条件の同じ取引相手に対し、取引価格などの取引条件で、差別的取り扱いをする行為、(キ)国務院独占禁止法執行機関により認定された他の市場の支配的地位を濫用する行為。

(4) 事業者が合併するか、又は、事業者が株式権利若しくは資産を取得することによりその他の事業者に対する支配権を取得するか、又は、事業者が契約などによりその他の事業者に対する支配権を取得するか、又は、その他の事業者に対して決定的な影響を与えられる行為。

なお、独占協定を取り決め且つ実施した場合、又は、市場の支配的地位を濫用した場合、独占禁止法執行機関は、違法行為を停止するよう命じ、違法所得を沒収し、且つ前年度売上高の 1%以上 10%以下の罰金を科します。取り決められた独占協定がまだ実施されていない場合、50 万元以下の罰金を科すことができます。事業者が「独占禁止法」の規定に違反して集中を実施した場合、国務院独占禁止法執行機関は、集中の実施を停止し、期限付きで株式若しくは資産を処分し、期限付きで営業を譲渡し、その他の必要な措置を採用して集中以前の状態へ戻すよう命じ、50 万元以下の罰金を科すことができる。

また、『独占禁止法』によれば、事業者が自発的に独占禁止法執行機関へ独占協定に係る状況を報告し且つ重要な証拠を提供した場合、独占禁止法執行機関は当該事業者に対する処罰を酌量減軽するか、免除することができます。

3)品源からのコメント

中国政府は、最近の独占禁止行動に関し、独占禁止調査は外資系企業のみに対して行っているわけではなく、中国国内の企業に対しても行っていることを強調する声明を発表しました。ただし、今までの決定を見ると、多くの外資系企業、特に日系企業が中国の独占禁止調査及び独占禁止法違反による処分の対象となりました。筆者は、発改委の独占禁止措置に対し、独占禁止調査及び独占禁止法違反による処分のリスクを下げるために、外資系企業は中国での経営政策をできる限り正規化すべきだと考えられます。具体的には以下のものが考えられます。

(1)  企業としては、中国「独占禁止法」、及び中国国家工商総局による「工商行政 管理機関による独占協定行為を禁止する規定」、「工商行政管理機関による市場の支配的地 位の濫用行為を禁止する規定」、「工商行政管理機関による行政権力を濫用して競争を排除、制限する行為を制止する規定」の三つの関連規定を企業内部の関係者が勉強するよう確保 しなければなりません。法律及びその関連規定を十分に理解した上で、企業自身の独占禁止政策や規定を最適化することが大事です。

(2) 価格設定方針などを含めた企業の経営戦略を正規化し、当該経営戦略が「独占禁止法」に規定された独占協定、市場の支配的地位の濫用などに触れないように確保しなければなりません。

(3) 独占協定、市場の支配的地位の濫用などの行為が既に存在している場合は、「独占禁止法」の関連規定に基づき、直ちに売買契約を修正し、価格独占などを引き起こすすべての措置を廃止することが必要です。一方、企業は自発的に製品の価格を引き下げることにより、上述した行為がもたらす結果及び影響を軽減、除去することができます。

(4) 政府関連部門により独占禁止調査を受けた場合、企業の役員及び従業員は自発的に調査に協力し、独占禁止調査に関連する資料、書類、パソコンなどを提供することが必要です。同時に、企業の状況に応じて、自発的に独占禁止法執行機関に、独占協定を取り決めたことを報告するとともに関連証拠を提供することで、処罰を軽減または免除することができます。

(5) 中国市場にこれから参入する、又は参入したばかりの外資系企業の場合は、リスクを最小限に抑えるために、参入当初に、投資を抑えて参入するほうがよいと考えられます。一方、中国に進出する同時に他のアジア国にも進出するほうがリスクを分散する面でよいと考えられます。

著者:北京市品源法律事務所 中国弁護士 武

    

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